【特別寄稿】大阪大学名誉教授・細川亙医師「インクメイク(タトゥー施術)違法論」に対する論考

【特別寄稿】大阪大学名誉教授・細川亙医師「インクメイク(タトゥー施術)違法論」に対する論考

【公開にあたって】

 「インクメイク」が、これからの業界基準(スタンダード)となります。
 本特別寄稿は、当協会の監修医であり、形成外科領域の世界的権威である細川 亙(ほそかわ こう)大阪大学名誉教授より賜りました。細川先生は、長年の臨床経験と医学的知見に基づき、「インクメイクは医行為にあたらず、医師免許は不要である」と断言されています。
 当協会は、この医学的・法的な「正当性」を踏まえた上で、インクメイクが美容⽬的であり、かつヘアメイク、メイクアップ(⾸から上への施術)を⽬的にしたものであることから、公衆衛生の国家資格を持つ美容師が「インクメイク施術行為ガイドライン」を遵守し、厳格な管理体制の下で施術を行う体制を確立・運用しています。

目次

【特別寄稿】

⼀部SNS等で⾒受けられる「インクメイク(タトゥー施術)違法論」に対する論考
〜 『インクメイク』は医⾏為なのか 〜

【著者プロフィール】
細川 亙(ほそかわ こう)大阪大学名誉教授。医学博士。大阪大学医学部形成外科初代教授、日本形成外科学会元理事長、日本形成外科手術手技学会元理事長、日本形成外科学会名誉会員、アメリカ形成外科学会名誉会員。現在は独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)大阪みなと中央病院名誉院長を務める。形成外科領域における世界的権威として知られる。

 昨今、SNSやインターネット上において、一部の美容外科医や看護師等が、「医師免許を持たない者が行うタトゥー施術(インクメイク)は違法行為である」といった情報を流布している。これらの主張は、2020年の最高裁判所決定を無視したものであり、看過できない。ただこのような誤った見解が世の中に流布されることには、厚生労働省に全責任があることを私もわかっている。ここでは厚労省の恣意的な通達ではなく、法解釈の最高峰である最高裁の判断を示しつつ、読者の皆様がそれに基づいた正しい判断ができるようにと思いこの論考を寄稿した。

1.「タトゥーは医行為」という厚労省通知は、最高裁により否定された

 そもそも日本の古来からの刺青文化を覆す「タトゥーは医行為である」などという馬鹿げた通達を厚労省が出したのは2001年のことである。大昔からタトゥーは彫師が職業として行ってきたし、国民も「タトゥーは医師がやるべき仕事」などと誰も思っていないのに、立法機関でも司法機関でもない厚労省の一部局がなぜか「医師が行わなければ犯罪」という突拍子もないことを言い出したのである。突然に医師法違反に問われ逮捕・起訴された気の毒な彫師の男は原審、控訴審、上告審と争い、最高裁は「タトゥーは医行為ではない」という決定を下した。厚労省によってなすり付けられた罪を彫師は晴らすことができ、厚労省の「タトゥーは医行為」という唐突な見解は司法最高機関によって明確に否定されたのである。

 ところが厚労省は最高裁決定に従わず、無効とされた見解と同様の通知を未だに出し続けている。そのような最高裁決定に従わないその後の通知も無効であることは、日本の法制度上疑いの余地がない。そして厚労省配下の日本各地の保健所や厚生局などの機関も、医師や看護師でない人によるタトゥー施術に対して許容する姿勢を示しており、厚労省によるタトゥー行政は今や破綻した状態にある。

2.タトゥー施術の保健衛生上の安全性

 タトゥー施術は、美容手術のような危険性を包含するものでないことを、医学的な侵襲性の低さと歴史的なエビデンスという視点から解説しよう。

侵襲性の低さ
タトゥー施術は、針先に色素を付けて皮膚の極めて浅い層に色素を入れる行為である。色素を注射器で圧力を加えて注入するのであれば想定外に過剰な色素が血管内に入るようなことも起こりうるが、タトゥーの施術ではそのようなことはおこらない。また、血管や神経を損傷して障害を残すようなことが、この層におけるこの手技にはおこらないということは、医療関係者であれば誰にでもわかるはずである。

歴史的エビデンス
日本には長きにわたるタトゥーの歴史がある。魏志倭人伝には倭人(日本人)の男は大人子供に関わらず顔や体に刺青をしているという記述がある。2000年以上にわたって健康被害などの問題も生じずにタトゥーは行われてきている。タトゥーによって国民の健康を脅かすような健康被害が多発したというような記録もない。この2000年という長い歴史がタトゥーの安全性を証明しているし、現在も昔ながらの刺青は彫師によって安全に行われている。

3.医療従事者によるポジショントークは恥ずかしい

 「タトゥーを施すに医師免許は要らない」「タトゥーは医行為ではない」ということは誰にも否定できない大前提である。ルール解釈の最終決定者である最高裁が判断を下しているからである。それに従わない厚労省の通知など何の効力もない。

 ところが一部の医療従事者は医学的根拠に基づかないポジショントークとして「タトゥーを危険だ」と煽り、医療従事者でない商売上の競争相手を排除しようとしている。タトゥーを施すには医師免許を要すなどという厚労省の無効な通知を利用しようとするのは、消費者の利益や安全を考えたものではなく、単に自己の利益を図ろうとしている醜悪な行為であると自覚してほしいものである。

4.医療としてのタトゥーを行いたい医療者に対して

 しかし、医療従事者の中には、お上である厚労省が「タトゥーは医行為である」という通知を出しているのだから、自分はそれに従ってタトゥーを医行為として施術したいと考える慎重な方もおられることだろう。そのような方のために以下に医行為としてタトゥーを行う場合の注意点を述べよう。

 まず、客の診察は医師によって行われなければならない。そして施術が医師でなく看護師によって行われる場合には、医師が看護師に対して具体的な指示をしなければならない。通常の医療において患者への注射を医師が看護師に指示する場合を頭に浮かべればよい。例えばどのような色素をどのような量用いてどの部位に入れるのかというようなことを、医師が看護師に指示しなければならない。「医行為としてタトゥーをしています」と主張するためには施術が看護師の裁量に任されるのではなく、具体的な指示を医師自身がしなければならないのである。

 実は私が所属する地域医療機能推進機構(JCHO)大阪みなと中央病院は厚労省配下の病院で、そこではタトゥー施術を行っている。それは看護師によるタトゥーで、看護師により問診と施術方針の決定、そして施術が行われている。医師が常駐する医療機関で看護師によって行われているタトゥー施術であるが、これは「医行為」としての条件は満たしていない。

まとめ

 インクメイク、アートメイク、刺青、入墨などなんという言葉を用いようと、2020年の最高裁決定によりタトゥーを入れる行為が医行為ではないことは動かしようがない。そして、その安全性は医学的にも歴史的にも証明されている。現在日本各地の保健所なども最高裁決定の法理に基づいた実務を行っているのである。

 一部の医療者が他者を排除する目的で「タトゥー施術=医行為」を主張しているとするならば、それは恥ずかしい行いである。もちろん医行為としてのタトゥー施術を追い求める医療従事者もいても構わないが、単に看護師がやっていれば医行為であるという論理は成立しないことも十分理解しておく必要がある。

【編集後記】「法の支配」と「自主規制」の両輪で、新たな美容文化を拓く

 いかがでしたか。 医学界の重鎮であり、形成外科の世界的権威である細川亙大阪大学名誉教授より、極めて明快かつ論理的なご見地をいただきました。細川先生の論考により、インクメイクが「医師法違反」にあたらないことは、医学的にも法学的にも疑いようのない事実として裏付けられました。しかし、私たちは、この「適法性」にあぐらをかくつもりは毛頭ございません。

 むしろ、「医師免許が不要」であるからこそ、誰が施術を行うかという「資質」と「責任」が問われる時代に入ったと認識しております。 当協会は、最高裁判決が求めた「医師独占以外の方法による危害防止」を具現化するため、厳格なインクメイク施術行為ガイドラインの遵守を徹底してまいります。

一般社団法人国際タトゥーアーティスト協会 代表理事 宮本 恵介

目次